自堕落

お酒もタバコも飲まない


だけど俺は自堕落なのさ


会社へと車を走らせる


志望動機なんてへったくれもない


ただ家族と生活を守るため


俺は自堕落なのさ


この世に生まれて生きてきて


俺は日常というものに飽き飽きしていた


自慢げに生活を大っぴらげに話して


周りが手を叩いて喜んでいると思ってる奴はアホだ


お前はただバカにされているだけだ


大して好きでもない人と結婚して


子どもが産まれても俺は自堕落だった


ニュースに出てくるきちがいな親にはならないけど


俺は産まれてから満足なんてしてない


生涯孤独でも


道を踏み外して薬漬けになることもない


だけど満足できないのは


俺が自堕落だからだ


ラジオから流れる音楽


10代と思しき甲高い声のボーカルが


社会も何もかも死ねと騒ぎ出す


その溢れるばかりの反抗心に


嫌気がさすとともに少し羨ましい


自堕落がなんだ


お前が生きてくれるだけで幸せな人もいる


そう言って親父は死んだ


なんだか名前も知らない涙が溢れてきた


初めて感情を持った猿みたいだった





ある男の成長

高校三年生


最後の試合


試合に負けることは鼻から分かっていたが


僕は最後の最後


人生で一番集中して


シュートを決めた


だけどそのボールは


あっけなくゴール手前で落ちていった


僕はその日から


大小関わらず何か不幸が起こる前触れに


この映像が頭の中で流れるようになった


彼女が妊娠したと聞いた時


僕は胸が高鳴ったと同時に


これから身に起こる全て


つまりは


まずは相手側の両親に挨拶に行き


場合によれば


男としてのふしだらな点を


これでもかと罵られるのではないかという不安が


新しい生命の誕生の感動よりも優っていた


まあひとまずは挨拶は無事終わった


相手の家族はとても温和な人たちで


緊張で何を喋ってるのか


自分もよく分かっていない僕を


温かい眼差しで見守り


そしたら早く籍を入れて


子どもが生まれて落ち着いたら


式を挙げたら良いんじゃないと


結婚の許しを乞いにきた僕に


最初から二人のことを祝福していたように


これからの未来について


大変だけど応援するからと労ってくれた


どちらかというと僕の親の方が


自分の息子だからと気遣いもなく


そんなデキ婚だなんてふしだらな


という感じで接してきたので


今後この人達とは


積極的に関わりたくないと


思った次第だった


彼女と僕は挨拶を済ませたらすぐさま籍を入れて


少し広めのアパートを借りて


これから生まれてくる我が子の為


薄給ながら揃えた


ベビーグッズを並べ


僕は大きくなるお腹に毎日耳を傾け


子どもの誕生を待ち望んでいた


だけど


まだ8ヶ月に満たない頃


僕は夢で


あの忌々しいバスケットゴールのシーンを見てしまった


そしていつもボールはゴール手前で落ちてしまう


その次の日


今まで皆勤賞だった会社を休むほど


寒気に襲われ


なんだかずっと具合が悪かった


それからは


妻が出かけるたびにしつこく


気をつけろと脅すものだから


妻が血走った僕の目を見て


この人おかしくなってしまったのかしらと


精神科の先生に


夫の奇行についてたびたび相談しにいくほど


裏では相当心配していた


だけど


梅雨に入る前の6月


僕たちの子どもは元気な産声をあげた


僕はこの数ヶ月間


全く寝れず


かといって仕事には行っていたので


我が子を腕に抱いた瞬間


膝から崩れ落ちて


気づいたら病院のベットで眠っていた


仲間内からは


初めての子どもだからって


そんなに舞い上がるものかなんて笑われたけれど


自分の子を守りたいと思わない親がいるものかと


普段めったに怒らない僕が怒鳴り散らしたので


僕は大事な友人を数名失ってしまったほど


その頃は完全に自分を見失っていた


だけど子どもが大きくなり


自我が芽生えていくにつれ


バスケットゴールの映像は遠のき


ああ


単なる思い過ごしだったんだなと


若くうぶだった僕の可愛らしさとも憎さとも


とれないその感情を


過去において


僕と息子はともに成長した


そんな話を


よくサシで飲みにいくようになった後輩に話すと


息子さんがバスケットをしたいって言いだしたら


どうするんですかと聞かれたので


僕は


息子が言うんだったらバスケだってなんだってさせてやると


豪語していたんだけど


心の中では


絶対バスケなんてやらさないと固く決めていた














迷わない

私は迷わない


決断だけする


答えは分かっている


心理的な騙し合いは通じない


みんな迷ってると言うけれど


答えは決まっている


迷いという焦らしを見せて


私に注目してと見えない空気で伝える


そしてそんな風に曲がって生きてきた私は


ある決断をしたの


もうそうやって


鳩に餌撒くみたいに


周りの人を


迷っているふりして巻き込んだりしない

明日

明日何かが起こるかもしれないと


奇跡を待ち望んでは


いつ来るのって待ちくたびれている


人の幸せが羨ましすぎて


近所のガキにブスブス言われて


心がぽきっと折れてしまいそう


お店に並ぶショーケースの


一番安い飾り気のないケーキを選んで


お家で1人で食べても何も満たされないの


それは明日が来ないから


明日ってなんなの


そうやって不安に全身浸かっては


呼吸するのが苦しくなって


あぶくみたいに意思も消え消えになる


誰か私を助けて


笑ってないで助けてと


何度も繰り返して


泣きながら夜を越す


明日は来るのか


明日は来るのか


明日が来ないと


私は前に進めない

ブス

ブスは言葉の暴力だ


相手を貶めるためだけの


自分が勝ち誇るためだけの


最低最悪な言葉だ


苦しめて苦しめて


相手が弱る姿を見て笑う


仲間と一緒くたになって


あいつキモいとか


あいつブスとか


はたまた死ねとか


自分の弱さに向き合えない人が


歯向かってこない相手に


言葉の暴力を繰り返す


だから私は


何度もお願いするのだ


もう苦しみはたくさんだ


自分にも悪いところがあった


充分反省してるって


だけど


何か変わったのか


何か静まったのか


帰りたくない


帰りたくない


帰りたくない


コインランドリーにて

コインランドリーにて


人々が行き交う


生活が交わる場所


平日の午前中


いろんな家庭を持つ人がやってくる


冬は洗濯物がなかなか乾かないから


乾燥機だけがいっぱいだ


私も靴を洗いながら


二足洗えるなら


今履いてるもう一足も洗いたかったなと


ちょっと後悔しつつ


何事も綺麗になるのは嬉しい


心を洗おう


ゴシゴシと


もっと綺麗な心で生きていきたい