ある男の成長

高校三年生


最後の試合


試合に負けることは鼻から分かっていたが


僕は最後の最後


人生で一番集中して


シュートを決めた


だけどそのボールは


あっけなくゴール手前で落ちていった


僕はその日から


大小関わらず何か不幸が起こる前触れに


この映像が頭の中で流れるようになった


彼女が妊娠したと聞いた時


僕は胸が高鳴ったと同時に


これから身に起こる全て


つまりは


まずは相手側の両親に挨拶に行き


場合によれば


男としてのふしだらな点を


これでもかと罵られるのではないかという不安が


新しい生命の誕生の感動よりも優っていた


まあひとまずは挨拶は無事終わった


相手の家族はとても温和な人たちで


緊張で何を喋ってるのか


自分もよく分かっていない僕を


温かい眼差しで見守り


そしたら早く籍を入れて


子どもが生まれて落ち着いたら


式を挙げたら良いんじゃないと


結婚の許しを乞いにきた僕に


最初から二人のことを祝福していたように


これからの未来について


大変だけど応援するからと労ってくれた


どちらかというと僕の親の方が


自分の息子だからと気遣いもなく


そんなデキ婚だなんてふしだらな


という感じで接してきたので


今後この人達とは


積極的に関わりたくないと


思った次第だった


彼女と僕は挨拶を済ませたらすぐさま籍を入れて


少し広めのアパートを借りて


これから生まれてくる我が子の為


薄給ながら揃えた


ベビーグッズを並べ


僕は大きくなるお腹に毎日耳を傾け


子どもの誕生を待ち望んでいた


だけど


まだ8ヶ月に満たない頃


僕は夢で


あの忌々しいバスケットゴールのシーンを見てしまった


そしていつもボールはゴール手前で落ちてしまう


その次の日


今まで皆勤賞だった会社を休むほど


寒気に襲われ


なんだかずっと具合が悪かった


それからは


妻が出かけるたびにしつこく


気をつけろと脅すものだから


妻が血走った僕の目を見て


この人おかしくなってしまったのかしらと


精神科の先生に


夫の奇行についてたびたび相談しにいくほど


裏では相当心配していた


だけど


梅雨に入る前の6月


僕たちの子どもは元気な産声をあげた


僕はこの数ヶ月間


全く寝れず


かといって仕事には行っていたので


我が子を腕に抱いた瞬間


膝から崩れ落ちて


気づいたら病院のベットで眠っていた


仲間内からは


初めての子どもだからって


そんなに舞い上がるものかなんて笑われたけれど


自分の子を守りたいと思わない親がいるものかと


普段めったに怒らない僕が怒鳴り散らしたので


僕は大事な友人を数名失ってしまったほど


その頃は完全に自分を見失っていた


だけど子どもが大きくなり


自我が芽生えていくにつれ


バスケットゴールの映像は遠のき


ああ


単なる思い過ごしだったんだなと


若くうぶだった僕の可愛らしさとも憎さとも


とれないその感情を


過去において


僕と息子はともに成長した


そんな話を


よくサシで飲みにいくようになった後輩に話すと


息子さんがバスケットをしたいって言いだしたら


どうするんですかと聞かれたので


僕は


息子が言うんだったらバスケだってなんだってさせてやると


豪語していたんだけど


心の中では


絶対バスケなんてやらさないと固く決めていた