トタン屋根の家
あの山裾にある
トタン屋根の家には
初老の男性が一人住んでいる
男性は妻に先立たれ
子どもは皆家庭を持って出て行ったらしい
トタン屋根は錆ついていて
ホームレスか何か住み着いているんじゃないかと
誰も寄り付こうとはしなかった
男性は毎日畑に出て
それなりに生活を楽しんでいたように思うが
私が次にそこに訪れた時には
家は綺麗さっぱり無くなっていた
私は初めてその家が建っていた場所に赴き
今度はおじいさんの立場になって
過去の自分と対峙してみた
ズタズタに汚された学生服を着て
うつらうつらと歩く少年に
辛いのは今だけだから
どうか生きてくれと
届かない言葉を送る
もうここにトタン屋根の家はないが
私の記憶の中には
いつまでもあの家が生き続けている